トラウマ詰め将棋

「これって僕だけですかねえ」

「私って変なのかなあ」

みたいなこという人には

「全然そんなことないですよ。1学年に20人くらいの割合でそういう人いると思います」

と具体的な数字を出して答えるようにしている

あなたが世界で一人だけの個性を持った人なわけがないと伝えたいのだ

世界で一人だけの個性を持った人がいるとしたら「私って変なのかなあ」なんて事は気にもしないはずだし

世界で一人だけの個性を持った人はこんなスーパーのレジ打ちのバイトはしていない

もちろん僕にも世界で一人だけの個性なんて1つもなくて

これから話すことも10人中3人くらいはそうだろうと思って話す

 

過去にあった理不尽な事を思い出して

「あのときこう言っておけば良かった」

「そしたら相手がこう言うから・・・」

「今度はこう言い返して・・・」

と記憶の中の嫌な奴と口喧嘩して

自分が勝つまでシミュレーションしてしまうことってありますよね?

僕はこれをトラウマ詰め将棋と呼んでいて

電車に乗っている時などにこれが始まってしまうと

降りる駅を通りすぎてしまうほど入り込んでしまう

 

僕のトラウマ詰め将棋によく登場するのは

7年前にいった映画館の3Dメガネを手渡すおばさんだ

僕が3Dメガネを受け取ろうとするとレンズ部分に手が触れかけているのがきになったらしく

さっと手を持ち上げ僕からメガネを取り上げた

そして目も合わせずに「触らないで」

というのだ

ちょっとしたことだけどすごく気分が悪くて映画の前半が楽しめなかったのを覚えている

 

そのおばさんと僕は頭の中で7年間戦い続けている

 

そしてやっかいなのは口喧嘩中のおばさんのセリフも僕が考えているため

弁論力が互角なのだ

うまいこと言い返されて負けてしまうことすらある

 

そしてまた降りる駅を通りすぎている

 

何をやっているんだ

おばさんはもうそんなこと全く覚えていないのに

 

それなのに生きていると理不尽な経験も増えていき年間一人くらいは詰め将棋の新キャラが登場する

 

すると詰め将棋にかける時間も長くなり乗り過ごすのが1駅じゃ済まなくなってくる

 

このままでは良くない

僕はおばさんを許してみることにした

 

目を閉じて

7年前のあの景色を思い出す

ポップコーンの匂い

青い照明

ふかふかの床

そして僕はおばさんのもとに行き

3Dメガネを受け取る前に

おばさんを力強く抱きしめた

おばさんは満面の笑みで

光を放ちながら消滅していく

 

そんなイメージを頭に植えつけたのだ

何度も反芻するうちに実際にあったことかのように思えてきて

トラウマ詰め将棋におばさんが出てくることは減っていった

 

僕には消滅させなきゃいけない相手があと20人はいる

 

あと3人許すのが2018年の目標だ